第2章 夢へのRestart
本来ならば、マリナが何といおうとも、shabanaではなくUpper Moonに付けたいところだが、本人の意思を無下にしたり、他の人間関係を蔑ろにすることをきつく禁じる縁壱が見ている以上それは叶わぬ事。何より、過去に大きく過ちをしたことから”相手が相手の意思で決めた居場所こそ、真の能力が発揮されること”を痛感していた無惨だからこそ、あえてマリナに選ばせるという選択肢を与えたのだ。
そして、その選択肢をマリナに突き付けられたのを見てしまっている謝花兄妹は、不安な表情をしていた。
それもそうだ。第一線で活躍し始めていたマリナは順調に彼女のいる業界での認知度が高くなってきている。
しかし、マリナは表情を一切変えず真っすぐに鬼舞辻を見ている。
「童磨さんとの関係もご存じだったのですね?
しかしながら、わたしが海外に出るにはもう少し実力と語学能力が足りません。Upper Moonの方々は既に大舞台で広く活躍されていらっしゃいます。
専属としてつくのも音楽でのステージ事態もわたしにとって初めての経験です。故にお誘いいただいた”shabana"のお二人と一緒に成長していけましたらと思っています。」
「ほぅ...そうか...。」
無惨は自分の本来の希望をきっぱり断られたのにも関わらず上機嫌の様子だ。どこか面白い者を見る様子でマリナを見ている。
そして、
「この二人をお前の服で最大限に盛り立てろ。目標は来年の秋に武道館での公演を果たすことだ。失敗は許されぬと心せよ。」
「勿論でございます。」
「ふむ。面白い。音川鳴女が”shabana"の企画担当だ。彼女と”shabana"と連携を取り事を進めるがよい。近い仕事では映画主題歌のMV撮影が控えている。」
「お任せください。」
「頼んだぞ。いずれ、”shabana"も海外進出させたいと思っている。」
幾分か雰囲気を和らげて席を立った。彼らに背を向けた鬼舞辻の後ろに続く縁壱は、一度振り返り希望が叶って良かったなとでも言いたそうな暖かい眼差しを向けたのだった。