第2章 出航×釣竿の少年
船は6時きっかりに出航された。釣竿を使って乗り込んできた純情そうなつんつん髪の少年とスーツの男もいたがそれ以外変わったことは何もなかった。ただこの船の運転は非常に雑なのか、普通の船よりちょっぴり揺れが激しかった。常に体幹の意識がなければならない。途中で吐く輩も多かった。その際、大の男連中がふらつき始めている中で、びくともしていない。いいやこの事実に何も感じていない少年がいて、一際目立っていた。
少年は楽しそうに、釣りをしていた。私は気になって少し離れたところからその少年を眺めていた。すると、くるんと顔だけ少年はこちらに向けて、にっこり可愛らしく笑った。
「もしかして、お姉さんも釣りしたいの?」
「は?釣り?」
私は呆気に取られてそんな言葉を口にすると、無垢な瞳で少年は首を傾げた。
「さっきからオレの事見てたでしょ?だから釣りに興味があるのかなって!」
そういって、少年ははいと私に釣竿を渡してきた。思わずそれを握り、案内されるがままに海に釣り糸を垂らした。
「貴方が楽しんでいたのに、いいの?」
「うん!二人でする方が楽しいよ!オレ、ゴンっていうんだ!」
「私はイリス…君年齢は?」
「もうすぐ12歳!」
「私はもうすぐ15歳、そんなに歳、変わらないし呼び捨てで構わないよ」
「そっか!じゃあ、イリス!よろしくね」
あまりの純粋なまなざしに今までの緊張感がほどけてしまった。私はくすりと、笑ってよろしくと頷く。
「あ、イリスかかったよ!」
「どうすればいいんだ?」
「引いてみたり泳がせてみたり、こうやって…」
ゴンは私に釣りの仕方を教えてくれた。長旅もこれなら退屈しなさそうだと感じた。ふいに近くにいた船長が船長が「荒れるな…」と独り言を呟いたことが少々気がかりとなった。