第2章 愁パート 完
初めて聞いたヒロインの歌声に心が惹きつけられる。
アカペラから始まる高音。圧倒的な才能。
嫉妬を覚えることすら驕りだと感じ音楽に聞き入る。
アコースティックギターの旋律が室内に響き渡り俺のメロディシアンが共鳴する。
「行かないでね」
挑発的なサビ。
強烈なサウンド。
ただのギタリストで終わらせるには惜しい才能。
しかし同時に酷く胸が苦しくなった。
「愁!」
前のめりになり、胸を抑える。
強烈な違和感と自身のサウンドルがいきなり濁っていく感覚に深く息を吐いた。
劣等感。
ヒロインに対する劣等感で頭がおかしくなりそうだった。
「っ………ごめん、この曲は良くないね。最近書く曲はこんなのばっかで……ごめんね」
「い……や…問題ない」
濁ったメロディシアンがゆっくりと元に戻っていく。
「それよりも…だ、最近書く曲がこうってどういうことだ?」
曲としては完成された曲。
サビに入るまではメロディシアンストーンが浄化されるほど凄まじい音楽エネルギーだった。
「………わからない。ただ、最近調子が良くなくて」
「何か精神的な原因があるんじゃないのか」
そう聞くと、ヒロインは声を震わせた。
「……………メジャーデビューの話が、きてるんだ」
メジャーデビュー
衝撃的な話に言葉を失う。
「……よかったな」
一握りのミューモンにしか許されない頂。
しかしヒロインの表情は曇ったまま、ギターを軽く叩いた。
「やって……いけないと思うんだ。けどみんな乗り気で。それに………」
首を横に振る。
「ネガティヴになったらダメだよね。前を見なきゃ」