第2章 愁パート 完
それから数週間
雨の降る夜に傘もささずに街を歩くヒロインを見つけた。
「愁……どうしたのこんな時間に」
「こっちのセリフだバカ。傘もささねーで何やってんだよ!」
みずぼらしく濡れた髪。傘の中に慌てて入れるもののここまで濡れているならもう関係もないだろう。
顔を覗き込むと、その表情は異様にやつれていてメロディシアンも異様な程闇に染まっているのを感じた。
「なんでもないよ」
「なんでもなくねーだろ!何があった」
ヒロインの息を呑む音が聞こえる。
こんな時でも美しさを失わないこいつの音に苛立ちを感じた。
「ボーカルが……彼が浮気してたんだ」
小さく漏れる声。
「ベースの子と………それでっ」
視線が逸らされると、ヒロインは笑みにその感情を全て押し込めた。
「バカみたいだよね。バンド内で付き合うなんて、こういうことが起こるってわかってたのに!
……だから、バンドも、デビューも3人で好きにやれって!」
傘を地面に落とし、ヒロインを抱きしめる。
雨に濡れるのも構わずに。
「好きだった、好きだったんだよっ」
小さな嗚咽が洩れる。
中学の時からの付き合いだというのに、こんなにも感情の揺れるヒロインを初めて見た。
「俺にーーーー」
その先の言葉を言うことはできなかった。
「もうバンドなんて組まない、恋なんてーーーできない」
あの日からヒロインのメロディシアンが浄化されることはなかった。
「ベーシストが亡くなってザマアミロって………あのね、まだ何処かであの人を好きな自分がいるんだ。いつか戻ってきてくれて私をあの頃みたいに抱きしめてくれるって信じてる自分が………今の私が許すわけないのに」