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【SB69】レディ・レディ[オムニバス]

第1章 チタンパート 完


帰り道、以前彼女を見た場所に行くと、こないだと同じ格好のままの彼女が胡座をかいたままそこにいた。
アコースティックギターの調子を合わせているようで、優しく弦を撫でる音が心地よく耳に届く。
徐々に人も始まり始めている中、俺は最前列へと体を滑り込ませた。
黄色のチューリップハットに茶色の草臥れたセーター。
アジアンなサルエルパンツ。
統一感のないその格好を笑うものはいない。
この場にいる全員が、この人から鳴る音を楽しみ、演奏を今か今かと待ちわびる。
こんな気持ちは 初めてだった。

一瞬、音が止む。

「ーーー"初恋"」

ハスキーなハイトーンが響く。
切なく、甘く響くハスキーな声が恋を歌い上げる。
美しいその歌
その歌は初恋というよりもーーー












撤収するようで、彼女がギターケースにギターを仕舞う。
側に置かれた空き缶にはサウンドルが詰め込まれ、溢れんばかりに盛り上がっている。
3曲歌った彼女はそれも回収すると、立ち上がりサルエルパンツを払った。
「次は、いつやるんだ」
思わず声をかけると、その人は驚くことなくこちらを見た。
そしてくつくつと、笑い出す。

「本当に気づいてないのかい?」

思わぬ返答に思わず目を丸くしてしまう。
ただ、聞き覚えのある声に驚くと彼女は口元に人差し指を当てた。
「二回も来てくれて嬉しいよ。チタンくん………答え合わせは、また明日しようか」
「明日はバイト休みです」
「私は明後日休みで、明々後日は定休日だね……」
彼女がすこし何かを考える。
「じゃあ、この"ダサい格好"着替えていくからファミレスでも行こうか」
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