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【SB69】レディ・レディ[オムニバス]

第1章 チタンパート 完







今日はいるだろうか

そんなことを思いながら仕事をしていると、声をかけられた。
「チタンくんダメだよ、ぼうっとしてたら。手ぇ切ったら大変だよ」
「す、すいません」
POPを切りながら考え事をしてしまっていたようで、ヒロインさんに注意される。
「どうしたの?最近仕事に身が入ってないんじゃない?」
「いえ、なんでも……すいません」
「真面目なチタンくんにしては珍しいね」
ヒロインさんがパソコンに向くと、不器用そうにキーボードを叩いていく。
恐らく発注でもしているのだろう。

あの人を見たのは、あの時だけだった。
以来見かけることもなく一月が経とうとしている。
バンドのメンバーに聞いたり、ネットで調べてみたりもしたが、わかるのはその凄い腕前と声、それとネットではそこそこ有名でチューリップさんと呼ばれていることだけだった。
名前も顔も、何処に拠点を置いているのかもわからない。
「ちょっと……探してるアーティストがいまして」
「へえ、なんて子?」
「俺も一回しか見たことなくて、調べてもわかんないんです」
「特徴は?」
「ハスキーな声なんですが、透き通るような高音がーー」
「そうじゃなくて見た目の」
「えっと」
容姿を思い出していく。
「チューリップハットを、深く被ってて………全体的にダサい感じでした。それとアコースティックギター……」
「あー、…………うん、わかった。こないだここら辺でストリートライブしてた」
「そうです、その」
すると、ヒロインさんがすこし何か考える素ぶりをして、再び口を開いた。
「今日の夜にこないだのとこでやるよ」
「え、なんでそんなこと」
「ちょっとね。気になるなら夜見に来てごらんよ」
そこで、オーナーが出勤する。
「ヒロインあがっちゃってー。おはようチタンくん」
そこでヒロインさんはイタズラっぽく笑ってタイムカードを押した。
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