第1章 チタンパート 完
私よりもずっと苦労している彼に驚いた。
同時に彼を甘ったれのお坊ちゃん程度にしか思っていなかった自分に嫌悪する。
「そっか、偉いね」
それでいて、自分の好きなことで稼ぐことができる彼に嫉妬もした。
ベーシストが亡くなったのは、チタンくんが店に入る少し前のことだった。
痴情のもつれ、と聞いて呆れたものだ。彼女の元彼に車で轢き殺されたそうだ。
メディアではメジャーデビュー前のベーシストの非業の死として取り上げられていたけれど、その中身を聞くと馬鹿馬鹿しくて笑うこともできないような内容。
ざまあみろ。
そう思ってしまった私に嫌気がさす。
「戻らないよ私は」
そう言うとドラムは困ったように笑った。
再び私はギターに触れるようになった。
最初は軽く音を鳴らすだけ。
感覚を取り戻してくると、アコースティックギターを持って外で弾くようになった。
何度目かのライブの時、チタンくんが私の演奏を見ていることに気がついた。
プロ意識の強いチタンくんのことだ、こんな遊びみたいな演奏、好きじゃないかもしれない。
しかし彼は反して私の演奏が気になっていたようだった。
「チューリップハットを、深く被ってて………全体的にダサい感じでした。それとアコースティックギター……」
「あー……」
私だと、内心嬉しく思った。
私の奏でた音が、誰かの心に根付く。
答え合わせをしようかと声をかけ、あの時のチタンくんが驚いたような顔は忘れられない。
それからバルトくんとニケルくんがうちに来るようになって、チタンくんとも仕事以外での交流が増えた。
ぶっきらぼうなところもあるけれど、真面目で弟想いで優しい人。