• テキストサイズ

【SB69】レディ・レディ[オムニバス]

第1章 チタンパート 完


唯一、部屋に飾ったバンドの写真は捨てることができなかった。
1番幸福だった時間を無かったことになんてできなかった。



それから、私は全てから逃げるように仕事に打ち込んだ。
オンラインでの修理受付も軌道に乗り、大手事務所との定期メンテナンスの契約も付け安定し忙しくなってきたところでバイトの募集を始めた。
妹達も手伝ってくれているが、手が足りない。
「ーーチタンくん、か。楽器屋の仕事は初めて?」
「いつから入れる?明日?凄いね……じゃ、明日からよろしく」
「あんまりお客さんはこないけど、うちは修理依頼がメインだから……シンバルのカッティングとか雑務をお願いしたい」
「あー、ごめんチタンくん?妹が出勤できなくなってさ、急だけど入れる?」
「いつもありがとうね。今月から給料少し上げとくから」
よく働く子だと思った。少し無愛想だけれど真面目ないい子だ。
シンバルをカットする指を見てピアノを弾く子ということも知った。
カタログでアルカレアファクトというバンドのデビューを知って、彼がジューダスに所属しているのだと知った。
飛ぶ鳥を落とす勢いの人気ぶり。トライクロニカがツアー中とはいえ、その間に週間チャートのトップに君臨するとは流石だと思う。
そんな彼が未だにうちで何故バイトを続けているのかがわからなかった。
「……チタンくんはなんでバイトしてるの?」
好奇心で聞いただけだった。黄金アーティストだかなんだが知らないけれどきっと彼はお金持ちだ。
金持ちが道楽で庶民のフリをしているのかとも思った。
「………両親が事業に失敗しまして……その借金を返すのと、弟達を食べさせていくのに……」
「弟?弟がいるの?」
「はい、二人……」
/ 76ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp