第1章 チタンパート 完
私は同じバンドのボーカルに恋をしていた。
少し荒削りな歌声で自分の曲を歌って貰うのが好きだった。
「ねえ、うちのバンドに入りたいって子がいるんだけどさ、どうかな?」
ホテルのベッドで聞かされた音は、チープだと感じた。
「うちのバンドにも合うと思うんだよ」
ただ、たしかにベーシストが欲しいのは事実だった。
「……そうだね。いいと思う」
その選択が間違いだったのかどうかはわからない。
「今日からよろしくお願いしまーーす!」
その子はツインテールがよく似合う、可愛らしい女の子だった。
「うん、事前に聞かせて貰ってたけどここまでできるなら十分だね。次のライブは一ヶ月後なんだけど……できそう?」
「任せてください!全然大丈夫です!」
「そっか、それは頼もしいね。ベースなら、うちのボーカルが今までやってたからそっちに教わるのが1番いいと思う」
「わかりましたぁ。よろしくお願いします先輩!」
その時から予感はしていたんだと思う。
「メジャーデビュー……ですか?」
渡された大手事務所の社長の名刺に戸惑う。
ベーシストが入り慣れてきた頃、大きなフェスの帰りにその人は声をかけてきた。
「ええ、素晴らしい演奏でした。是非うちの事務所にと思いまして」
「……メンバーに聞いてみないと」
みんな、二つ返事で了承することくらいわかっていた。
本当は、意図はわかっていた。
私一人の時に声をかけたわけを
電話で了承の返事を入れる。
浮かれるメンバー達に反して、私の心は酷く沈んでいた。
「飛ぶ鳥も落とす勢いだし、これならAmatelastとの対バンでも今度こそ勝てんだろ」
「そうだね。ヒロイン、新曲ももう出来てるんだろう?」
「……うん」