第1章 チタンパート 完
外に出ると少しずつ雨が降り始めていた。
冷たい空気が肺を満たし頭が冷静になっていく。
そこでヒロインさんに誤魔化されたことに気がついた。
「ごめん」
彼女は何に謝っていたのだろうか。
雨に打たれながら歩いて帰ろうとすると、傘が後ろからさされた。
「悪かったな」
振り向くと、あのバンドのドラマーがいた。
「アンタは」
「男二人で相合傘して喋るのもなんだ、向こうのファミレスにいこう」
その言葉に同意して近くのレストランに向かう。
中に入ると従業員はドラムの男の顔馴染みなのか軽く手を挙げると何も言わずに奥の席に通された。
「ヒロインが高校を中退してから、俺たちの集合場所はここだったんだ」
コーヒーが二つ置かれ、目の前の男が口をつける。
「中退?」
「妹が二人いるのは知ってるか?というかあそこで働いてるんだったな……じゃああいつの母親が亡くなったのは?」
「話には……」
ヒロインさんが高校一年の時に母親が亡くなったことは聞いていた。
「あの時の店は随分とギリギリだったみたいでな。そこにおふくろさんが亡くなって一気に経営が傾いて、立て直す為に中退して店を継いだんだよ。妹達も食わしていかなきゃいけねーしな。経営者は親父さんになってるけど実質回してるのはヒロインだろ?」
「……まあ」
「俺らは中学ん時にバンドを組んだんだ。最初は俺とボーカル、それとヒロインがやっててな。そん時からヒロインの演奏は天才的だったよ、それこそ俺たちの演奏がお遊びに聴こえるほどに……」
コーヒーカップを手に取ると、強い香りが鼻をついた。
口をつけるとエグみと酸味が先にきて、後から嫌な苦味が広がる。
「………練習してる時、この曲は間違いなくヒットする予感はしてた。それとヒロインの作る曲調に近いことも……躊躇いがなかったわけじゃないが、けれど俺たちも切迫してんだ」
オリオンが言っていた、契約解除という言葉が過ぎる。
「それでもアンタたちがやったことはミューモンとして…アーティストとして最低なことだ」
男が自嘲すると、胸元から見覚えのあるタバコを取り出しそして何か思い出したかのように戻した。
「アルカレアファクトの坊ちゃんにはわかんねえよ」