第1章 チタンパート 完
「じゃあ、悪いけど行くな」
「ああ、気をつけてな」
オリオンの声を背中にしつつ、部屋の扉を閉める。
エレベーターに乗り、そこから見える輝く夜景を見下ろすと思わずため息が漏れた。
バイトは割と楽しい、だけど憂鬱だ。
古ぼけたメガネケースを取り出し、ひび割れた瓶底眼鏡をかける。
窓に反射する自分を見て、髪の毛が乱れるようにわざと自分の頭に触れると、どこにでもいる大学生のように見えた。
服だけは上等、これじゃあまるで服に着られてるみたいだなんて思わず自嘲する。
エレベーターが地上についたことを知らせる音がなると、扉が開いた。
エントランスを通り抜けて、自動ドアが開く。外に出れば金持ちそうな男が俺を訝しげな目で見て、ヒソヒソとアベックが足早に去っていった。
金持ちが集う街。そんな印象をうけるこの街でこの格好は異端すぎる。
好奇の視線から逃れるように、俺は細い路地へと身を隠した。