第1章 チタンパート 完
『あーチタンくん?ヒロインなんだけど……一人今日来れなくなっちゃったみたいだからちょっと早めに来れる?』
バイト先からの突然の着信、慌てて通話マークをタップし耳にスマートフォンを当てると、聞き慣れた社員の気だるそうな声に思わず顔をしかめた。
この人からの電話は、大抵シフトの変更だったりすることがわかってしまうのは、気心がある程度知れているからなのだろうか。
断れるものならば断りたいが、生活の為には金が必要だ。ライブで稼いだ金は両親の借金の返済に消えてしまう。まだ幼い弟たちを養う為には働くしかないと腹を決めた。
「わかりました。30分くらいでそっちにつくと思います」
バイトまであと2時間ほど、本来であれば僅かばかりでも新曲を作る時間に充てたいと思っていたが、仕方がない。
「おいチターン、まーたバイトかよ、よく働くなあ!」
「チタンも僕たちみたいにレートの取引とかで稼げばいいのに。元手くらいなら僕たちも貸すよ?」
アルゴンとセレンがそう言ったのを、苦笑いで返す。
「いや、そういうのはいい。それに俺はバイトも別に嫌いじゃないからな。案外バイト中にいい曲が浮かんだりもする」
するとオリオンは心配そうに俺を見て何かを言おうとした。
複雑なその表情に肩をすくめると、彼は仕方ないなと苦笑いした。
それにこのバイトは、融通が利く。
ライブがあるから休ませてほしいと言えば彼女は二つ返事で了承してくれる。人が捕まらなければただそれだけで、あの人は一人で店を回すんだろう。
小さな楽器店。一人で回すことができる規模のその楽器店で俺はバイトをしている。
先程の電話の主はオーナーの娘であるヒロインさんだ。
何をやるにも面倒臭そうだが、腕だけは超一流。一度ヒロインさんのギターの演奏を聴いたことがあるけれど、グレイトフルキング並みのテクニックを披露する彼女に思わず手に持っていたCDを落として怒られたのはいい思い出だ。