第1章 チタンパート 完
元々 うちのギタリストだった
その言葉が気になって、オリオンに聞いてみた。
「なあ、前にMタミで共演した男4人のバンド覚えてるか? ドラムが帽子被ったやつの……」
「ん?ああ、あのバンドなら覚えてる。それがどうしたんだ?」
「いや、どんなバンドだったか気になって……」
男四人の 4ピースバンド。ボーカル兼ギター、ギター、ベース、ドラムと有り触れたバンドではあるが、テクニックは一流。
特にドラムは観る者を圧倒する程。
「………と言っても、メジャーデビュー前にメインのギタリストとベーシストが抜けたらしいんだがな。悪いが俺も深くは知らない」
「それは有名な話なのか?」
「そうでもないな。けど、デビューしてから新曲を出しても殆ど売れてない。レーベル契約も解除間際と言われている。俺たちの敵ではないな」
「ハッ!セーィ!契約解除とか大したことねーんじゃねぇか!」
アルゴンがそう叫ぶと、セレンが苦笑いした。
「契約解除……」
もしかしたらあの男はそれを懸念してヒロインさんをバンドに戻そうとしているのだろうか。
路上で切なげに歌を紡ぐ彼女の姿が脳裏に過ぎる。
焼き付いて離れないその情景、彼女の歌には力がある。
「そういえばあのバンド、ボーカルとドラムは変わってないみたいだけどボーカルはあんまりだよね。なんていうか、高校生のちょっと歌が上手いやつーみたいな感じ。よくあのメンバーでメジャーデビューってなったよね」
つまり、亡くなったのはベーシストということか。
セレンは自身のスマートフォンを取り出す。
「なんか、前いたベーシストとギタリストは女の人だったみたい。インディーズ時代の写真は……残ってないみたいだけど。それにしてもチタンがよそのバンド気にするなんて珍しいね」
「ん、ああ、まあ、ちょっとな」
曖昧な返事に何か思うことがあったのか、オリオンが表情を渋くする。
「なにか……あったのか」
「いや、バイト先に来たから気になっただけだ」
「そっか、楽器屋さんだもんね」
3人はそれ以上その話題に触れることなく、次の新曲について花を咲かせた。
自分のスマートフォンで、そのバンドの名前を検索する。
公式ホームページのリンクをタップすると、そこに写っていた写真に目を見開いた。