第1章 チタンパート 完
「三回忌、どうするよ」
ピタリと動きが止まる。
「そっちで勝手にやって。私はいかない」
「アイツもお前に会いたがってるし、時間見つけてこれないか?」
「私には関係ない。顔出しただけでしょ?客じゃないなら出てって」
奥に消えるヒロインさん、帽子の男は困ったようにため息を吐くと、タバコを口に咥えた。
「ここは禁煙ですよ」
「ん?ああそうか、悪い」
火をつける前に止めると、男は口からタバコを離す。
「兄ちゃん、ヒロインとは付き合いが長いのかい?」
「え?いえ……俺がここに入ってから1年半くらいですから」
「ヒロインは元々うちのギタリストでね。腕はいいし本当は戻ってきて欲しいんだが……」
その言葉に、俺は納得がいった。
あの日見た写真立てに写っていた人物は四人。
その内の一人が、多少風貌は変わっているもののこの男だったのを思い出したからだ。
「しばらく見てねえ間に何してんのかって思ったら路上でミュージシャンの真似事みてえなことしてるし……」
真似事。
その言葉にカチンとくる。
「ヒロインさんはアーティストです。ヒロインさんの歌に感銘を受けるミューモンもいる。真似事なんかじゃありません」
すると男は面食らったような顔をした。
「おまえ、ヒロインの信者か何かか?」
「違います」
ヒロインさんの歌には感銘を受けてはいるが、信者ではない。
俺は俺の認めたものが否定されることに納得がいかなかっただけだ。
「……まあいいや、俺ドラマの撮影抜けてきただけだし」
男が店を出て行く。すると奥からヒロインさんが調味料入れを持って出てきた。