第1章 リップ【国見英】
こぼれてしまったものは、もうしょうがない。
この気持ちを言葉にすることは、一生ないと思ってた。
だけど、もうこれ以上英くんを好きにならない方法
知らないと思っていたけど
………ちゃんと知ってるじゃん
中学生の時みたいに、会わなくなれば
きっと、また
なかったことにできる。
「でも」
覚悟を決める。
大丈夫。
きっと、たった一瞬だ。
「英くんは私のこと
好きになってくれること。
ない、から」
言ってしまった。
どうしよう。
思ってたより、苦しいなぁ。
「なんで?」
あぁ、やっぱりこれは
伝えちゃいけないことだったんだ。
「ごめん」
「何が?」
英くんはいつもと変わらない。
こんなに苦しいのは、私だけ。
「英くんのこと、好きとか。
なんかそんなこと言って」
「なんでそんなこと言うの?」
なんでそんなに意地悪なこと言うんだろう。
中学生の頃のこと、まだ怒ってたりするのかな。
………いや、そもそも英くんはそんなこと覚えてないよね。
何も答えられない私に
英くんの身体がちょっとだけ近づく。
だけど、それに対して反射的に
私は一歩、後ずさる。
「………怖い?」
「………なにが?」
「俺のこと」
たぶん今、私が一歩引いたことで
英くんのこと、傷つけちゃったのかも。
「怖く、ないよ」
英くんのこと、怖くなんかない。
怖いのは、これから
もう、英くんに会えなくなること。
英くんに会うのが、今日で最後になること。
「ほんとに?」
「………うん」
英くんの右腕がこっちに伸びてきて、
私の左手が捕まる。
大きい、男の人の
だけどすごく
綺麗な手。
「小さいね」
「………そうかな?」
私の手の甲を撫でながら。
何が「小さい」のか、よくわからなかったけど。
「なんで、さっきあんなこと言ったの」
"あんなこと"って、どのことだろう………