いつかまた、キミと一緒に【文豪ストレイドッグス/長編】
第5章 私が選ぶ場所
−No side−
ヨコハマの何処かにある、
海の見えるその場所で
太宰治は1人、海を眺めていた
深夜のヨコハマはとても静かで
海風の音だけが鳴っている
『…治。』
突然、後ろから聞き慣れた声がして
一瞬幻聴かと疑った
ここに沙羅がいる筈ない、と
でも、振り返ってみれば
太宰が一番会いたいと思っていた人が
幻聴でも幻覚でもなく、其処に立っていた
「沙羅…」
太宰は珍しく、
目を見開いて驚いた表情をした
だってまさか沙羅が
自分から会いに来てくれるとは
思っていなかったからだ
足元にあるキャリーケースを見れば
沙羅はマフィアから出てきたのだと
そう見てとれる
「まさか、沙羅の方から会いに来てくれるなんて思っていなかったよ」
海を見ていた冷たい太宰の瞳は
沙羅に向いた途端に柔らかくなった
『…私、怒ってるんだからね!』
太宰の反応を見た沙羅は眉を顰めて
ガラガラとキャリーケースを引きずりながら
太宰の隣に立った
風の強い深夜のこの場に、
2人分の人影が並んでいる
「…すまないね、思っていたより色々と時間がかかってしまってね。でも、事が落ち着いたら沙羅を迎えに行く予定だったのだよ?」
『私を、迎えに…?』
「私が沙羅を置いていくわけがないだろう?」
その言葉を聞いた沙羅は
拍子抜けだというような表情で
はぁ…と安堵のため息を漏らした