君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第182章 182
午後五時ごろ、はFSCホールの通用口の前にいた。
「おや…君は……」
「あ、九条さん!初めまして、です」
「うん、天からよく聞いているよ。九条鷹匡だ……」
そこにいたのは天の養父であり、演出家の九条鷹匡。
今回のライブの演出を買って出てくれたと話に聞いていた。
はそのまま一礼し、彼を見上げる。
「今回のライブ、九条さんの演出なんですよね」
「ああ……天から聞いたのかい?」
「はい。九条さんの演出はいつも目を見張るものがあります。客席で見ても、いつまでも忘れられないのに、演者としてあんな音響や光の中で歌ったり踊ったりできたら…本当に一生忘れられない体験になるだろうなって。いつか、九条さんが演出したいと思えるような歌手になりますので、その際はお声がけください」
にこりと微笑み一礼し、傍を通り抜けようとすれば、そっと腕を掴まれた。
「ライブの予定はあるの?」
「残念ながらまだ。年明けにアルバムが出る予定ですが、ライブできるスケジュールじゃなくて…」
「そうか……僕も、君の曲は聞いているよ。とても透き通った歌声が魅力だ。どんな感情も的確にファンに届けることが出来る技量もある。君は素晴らしい歌手だ」
「ありがとうございます」
「もう少し、自信を付けるといいね。ファンはほんの少しの不安も見抜く力を持っている。君が少しでも怖気づくと離れてしまう」
「…はい」
「自信を付けた君が、僕に演出をして欲しいと言ってくれたら、僕は喜んで引き受けると約束するよ」
「え……」
そう言って少し陰のある笑みを浮かべた九条は、を見て小さく頷いた。
「君も、天と同じだったのか」
「え?」
「いいや、僕の独り言だよ。それじゃあ、明日のライブでね」
「あ、はい。お話ありがとうございました。失礼いたします、九条さん」
再度一礼し、軽く握手を交わしてからは通用口から中へ入る。
「……うん、良い子だ…」
九条がそう呟いたことは、誰にも聞かれることは無かった。
一方中へ入ったは、姉鷺から話を聞いたらしいスタッフに声を掛けられ、楽屋へと案内される。