君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第13章 13
これまでの撮影はきっちりと演じていたと自負出来る。
けれど、今日のこのシーンに限っては、演技はしていたものの、確実に私情が入っていた。
結果的にそれでOKが出て喜ばれているのだからそれでいいと考えてもいいのかもしれないが、女優としては如何なものか。
「納得できない?」
「…多少。自分本位に演じてしまいました」
「それでも、周りを満足はさせた。でも、今落ち込むのは早いんじゃない?」
「え…」
「結局、このドラマを見て批評するのは視聴者。龍のファンも多く見るし、君をデビューしたての新人として厳しく見る人もいる。君は所謂アウェーの状態でこれに挑んでる。今回君は自分では納得のいかない演技をしたけれど、確かにそれはプロとしては未熟だけど、けれど、視聴者を喜ばせられたら、アウェーの状態をホームにできたら、君の演技は間違っていないってことになるんじゃない?」
天のその言葉に、は小さく頷く。
「ありがとうございます、九条さん。本当に、さっきの演技は自分が出すぎてしまっていて、女優として満足できるものではありません。でも、結果を聞いてから、後悔も反省もしようと思います。あとは、クランクアップまで駆け抜けることを目標に、もう一度自分に喝を入れていこうと思います」
「うん、君みたいな根性のある子久しぶりに見たから、楽しみだよ」
天の言葉に一度きょとんとするも、褒められたのだと感じは微笑む。
「ありがとうございます。九条さんとも共演できるよう、頑張ります」
「うん、楽しみにしてる。じゃあ、時間だから行くね」
「はい、お時間取らせて申し訳ありませんでした。お気をつけて」
天を見送り、は隣にいた龍之介を見上げる。
「十さん?」
「…ちゃん、キスシーン、後悔してる?」
龍之介の言葉に、はクスリと笑い首を振った。
「いえ。そういう事じゃないんです。…十さん、撮影がすべて終わったら一度ゆっくりお話ししたいです。お時間、作って頂けますか?」
「勿論、作る。俺も、話したいことあるんだ」
言いたいことはお互い分かっている。
二人は顔を見合わせ、残りも頑張ろうね、と微笑みあうのであった。