君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第10章 10
『もしもし?』
「あ、十さん。お疲れ様です!撮休日にごめんなさい」
『お疲れ様!大丈夫だよ。何かあったの?』
「あの…明日のシーン、なんですけど…監督からの変更の連絡きましたか?」
『変更?ちょっと待ってね』
龍之介の声が受話器越しに聞こえただけで、の胸は高鳴る。
これが本当に、役柄の上でだけでの感情なのか。
『キスシーン…追加…?』
「はい…。あの、一応私もプロですし、仕事なのできちんとしたいんですけど、あの…」
『うん、わかるよ。ビックリしちゃった、よね』
「そう、なんです。私…」
キス、したことなくて…。
そう、にとって人生初のキスになるのだ。
『え、仕事では…って事だよね?』
「は、恥ずかしながら…プライベートでも、なくて…ですね」
龍之介からの問いに素直に答えれば、龍之介は一瞬戸惑ったように口ごもる。
『…じゃあ、大切に、したい…よね?』
「……いえ、十さんがお嫌でなければ…貰っていただければ、と」
そういったものの、顔からは火が出そうなほど照れ臭い。
『……さん…それ、ちょっと…ずるい…』
「え?!あ、ごめんなさ…」
『いや!ごめん!俺の言い方が悪かった!!あの、嬉しいよ!すごく!うん!』
「へ?」
『え?!あ…いや、えー、と…と、兎に角!明日!打合せちゃんとしよ!ね!明日!』
「は、はい!では、明日…よろしくお願いします」
『うん、大丈夫だからね?安心して。じゃあ…おやすみ』
本当に安心させるかのように、優しい声。
その声に、もまた自然と落ち着いて笑みを浮かべられた。
「十さん…はい、おやすみなさい」
通話を切り、はラビチャに並ぶ龍之介の名前をなぞる。
「…がんばろ」
小さく呟き、明日に備えて再度台本に向かい合うであった。