君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第86章 86
自分で分かっていたから、対策していたつもりだった。
迷惑かけないように。
心配かけないように。
困らせないように。
ガチャッ!バタンッ!!
早朝の小鳥遊寮に、扉が開き、閉まる音が響き渡った。
足音は小さいが、今は使われていない一室の扉の開閉音が聞こえた時点で、玄関の音で目を覚ましたIDOLiSH7の一部メンバーたちは緊急通報時の消防隊員のごとく部屋を飛び出し、その一室へ駆けつけた。
「ちゃん?」
「こんな早くからどうしたー?」
「おーい、だろ?」
小鳥遊寮の玄関の鍵を持っていて、迷うことなくこの部屋に入るものは一人しかいない。
周りの声掛けにごそごそと室内で音がした後、かちゃりと扉が開き案の定、がちょこりと顔を出した。
朝から天使である。が、いつもの笑顔がない。
「どうした?こんな朝早く…」
「…ごめん、龍くんと喧嘩したから、マンションに居られなくって」
ぽつりと呟くに、駆け付けた三月、大和、壮五、一織、ナギは顔を見合わせる。
「十さん怒らせたのか?」
「多分怒ってる…」
「多分て…喧嘩したんでしょう?」
「うぅ…」
一織の問いにぶわ、と涙を瞳に湛える。
そんなに一同大慌てである。
つくづく、この娘にはみんな弱い。
取り敢えず落ち着こうとダイニングへ向かい、に温かいココアを持たせる。
「ありがと…」
「言いたくなかったら言わなくていいけど、何があったんだ?」
「実は…」
はこの数週間、緩和スケジュールに移行前の最後の追い込みでとても忙しい日々を送っていた。
CM、インタビュー、ドラマ、雑誌の撮影、更には歌手デビューの為のプロモーション活動や打ち合わせも加わり、練習も加わって正に寝る間も惜しんでいる状態である。
それでも龍之介への連絡はきちんと送っていたし、一緒に居られる時間は大切にしていた。
その間に学業や家事も龍之介に手伝ってもらいながらも怠らなかった。
けれど、余りの忙しさに自身も気付かぬまま、少しずつ精神的な疲労が溜まってしまっていたのだ。
「爆発したか」
「仰る通りです……」