君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第81章 81
「」
「お父様、おはようございます」
の父である。
朝からスーツをぴしりと着こなし、すらっとした印象の美丈夫だった。
「もう東京へ帰るんか?」
「はい。仕事がありますから」
嘘である。
決して嫌っているわけでは無い。
けれど、互いにどう接すればいいかわからないのだ。
今まで他人の子のように扱われてきたのだ、今更父親の顔をして気遣われても戸惑うだけである。
「ドラマ、見たで」
「ありがとうございます」
「頑張ってんねやな。東京に一人で行かして心配やったけど」
「……少なくとも、東京の人たちはここの誰より温かいですよ。食事が終わっていないので、もうよろしいですか?」
ふい、と父から顔を逸らし、は手を合わせて食べ始める。
の様子に静かに息をつき、父は万理に一礼してその場を離れた。
「…父親は血が繋がってんだろ?」
「女将に頭が上がらなくて、のことはあまり構ってなかったみたい」
「…そう」
父娘の様子を見ていた龍之介たちは、顔を見合わせ呟く。
「あんなにいい笑顔なのに、そんな悲しさを抱えてたなんて誰も思わないよね」
「今、あの笑顔引き出してんのは龍だろうな」
「え?」
「最初からあんな柔らかい笑顔じゃなかっただろうと思うよ。あのまま龍に出会わなかったら、今無理が出てたろうね」
楽と天の言葉に龍之介はを見る。
美味しいものを食べて幸せそうにほころぶ頬。
頭を撫でると擦り寄ってくる笑顔。
悲しい時は素直に涙する心。
その全てを龍之介が引き出せているのかと思うと、龍之介の心もまた満ち足りる。
「だといいな…」
「、そろそろ俺行くね」
「はい。お疲れ様でした万理さん。帰り気を付けてくださいね。環と壮五さんによろしくです」
「うん、伝えとくよ。じゃあ、本当に気を付けてね」
一足早く食事を終えた万理が東京へ戻る時間がやって来た。
時間に余裕はあるが、急ぎで戻りたいと足早に去って行く万理を手を振りながら見送り、はそのまま席につく。
「」
「お母様…おはようございます。今日はお手隙なんですか?」
いざ続きを食べようと箸を持ち上げた瞬間、今度は女将がやって来た。