君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第59章 59
「緊張する…」
「俺も…」
事務所へ着き、社長室が近づくにつれての緊張はピーク。
ふと龍之介がの手に触れれば、いつもより数段ひんやりとしていた。
先程手を繋いでいた時には赤子のようにポカポカとしていたのに。
「、緊張すると手が冷えるよね」
「うん。これ昔からかな。震えたりしないけど冷えちゃう」
苦笑しながら頷けば、先頭を歩いていた姉鷺が立ち止まる。
見れば、社長室です!と言わんばかりの立派な扉。
「失礼します。姉鷺です」
ノックと共に姉鷺が名乗れば、中から入れと応答され、扉が開かれる。
龍之介に続きが入室し、マネージャー二人が並べば、は龍之介と共に一礼した。
「お忙しい中、お時間頂き有り難うございます」
「気にするな、丁度空いていた時間だ」
が一言礼を言えば、小さく頷かれる。
そんな返答に、姉鷺は目を見開く。
嫌味が一つもない八乙女のその言葉からして、如何にが気に入られているかを実感した。
接点も何もないはずなのに、見かけただけでここまで気に入るのは今までになかったことではないだろうか。
「で、小鳥遊事務所の女優さんが何の用だ?」
「そこは私から」
「姉鷺さん、俺から言います」
「え、なら私が…?」
「コントじゃないだろう。さっさと要件を言え。龍之介、お前の話から聞こうか」
立候補のしあいをしていれば、呆れたように八乙女が呟く。
名指しを受け、龍之介はこくりと頷いた。
「はい。俺はここにいるさんと、結婚を前提に交際しています。もうすぐ付き合い始めて三か月ほどになります」
「…ドラマの共演からか」
計算早いな、とこっそり驚きながら、龍之介は頷く。
「だろうとは思っていた」
「え?」
「結婚前提とは驚きだが、お前の性格からしたら中途半端な付き合い方はしないだろうと納得もできる。放送された分での彼女への接し方からしても、好きでもない女にあんな風に近づかないだろう」
お見通しであったらしい。
どこで龍之介との様子を見ていたのかはわからないが、八乙女の言う事は当たっている。