君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第50章 50
「何から話せば良いかねぇ…」
部屋に入り、簡単に荷物を片付け、テーブルにコーヒーを置いて人心地。
ちょっと話そうかな、とが呟けば、龍之介はの隣に腰掛け頷いた。
「前にも話した通り、私は旅館の次女」
「うん」
「だから、今世間で言われ始めてる『老舗旅館の跡取り娘』っていうのは正直嘘なんだよね」
「うん、俺と一緒だね」
「ん。で、多分龍くんが引っかかってるのは私が前に社長に行った『私は愛されてない』って奴だと思うんだけど」
の言葉に、龍之介は頷く。
「まぁ、簡単に言っちゃうと私は所謂妾の子って奴なんだ。旅館の女将の実の子じゃなくて、花街の芸妓の子」
「妾の子…」
「…ん。だから最初は私も舞妓とかになるはずだったのよ。だけど…お母さんが病気で亡くなった。だから、お父様の子だからって、お母様…旅館の女将が私を引き取ってくれたの」
呟きながら、は苦笑する。
「それが、三歳くらい。だから、お母さんの記憶は殆どなかったし、七歳くらいまで違和感はあったけど、両親の本当の娘だと思ってた」
そんな幼い内から違和感を覚えるとは一体どういうことなのか。
龍之介には考えも及ばない。
「世間体を気にする母は、私が一人になった時、夫が子供を捨てたって言われまいと私を引き取ったんだろうね。当然愛情なんてない。ただ、衣食住を与えてくれて、教育もしっかり受けさせてくれたから、そこはすごく感謝してる。
お父様も、お母様に負い目があるからか、私を娘というよりは他所の子みたいな接し方してた。
姉さんも、私の事を妾の子、芸妓の子としてしか見てないしね。まぁ、突然三歳児が家に来て『今日からあんたの妹やで』って言われても戸惑うだけだしねぇ」
ストローからシェイク状になったコーヒーをずぞぞぞ、と吸い上げる様は全く持って緊張感もないが、話の内容は思ったよりヘビーである。
「だから、社長にスカウトされた時は本気で『よっしゃ!』って思ったよね」
「そうなの?」
「息苦しいあの家からやっと抜け出せるって、そう思ったの。小鳥遊事務所は関西に支部とかないから、絶対東京これると思ったし」
くすくす笑いながら、は龍之介を見上げる。