君は水面に輝く光【アイドリッシュセブン 十龍之介】
第230章 230
女優・。
17歳というまだ未成熟な若さを持ちながら、その演技力は時にベテラン俳優さえも翻弄する。
「おはようございまーす!」
しかし、現場に入るまでの彼女は、年相応の高校生と同じであった。
「ちゃん!新作のクレープ食べた?」
「まだー、もうすぐ終わっちゃうよねぇ。行きたいなぁ」
「ちゃん忙しいから買い物行く暇もない感じ?」
「そうだねぇ…」
共演する俳優たちとスイーツの話、恋の話、ファッションの話で盛り上がる彼女だが、一たびカメラの前に立てばその役を憑依させたかの如く雰囲気が変わる。
「さん、このシーンですが」
「はい。……うーん…もっと緊張感ある方が良いですか?」
「そうですね。この後のシーンも緊迫した雰囲気が続くので」
「わかりました」
現在彼女が撮影しているのは、春からの連続ドラマ。
財閥の令嬢でありながら、不遇な待遇を受けている少女の役である。
ハートフルな内容ではなく、常に緊張が漂うサスペンスだ。
撮影中はもちろん、スタッフとの打ち合わせも常に真剣に向き合っている様子が各所で見受けられる。
「休憩入ろっか」
「はーい!万理さん、仮眠取ってきていいですか?」
「うん、行っておいで。時間になったら呼びに行くよ」
早朝から撮影に励む彼女は、時たまこうして仮眠をとる。
多忙な1日のつかの間の休息なのだろう。
「りゅーくんっ!」
『あはは!朝から元気だなぁ』
「龍くんと話せるんだもん」
『そう言ってくれて嬉しいよ。お疲れ様』
楽屋に戻るなり、が掛けるのは愛しの龍之介。
仮眠を取る時も確かにあるが、個人的には寝るよりも龍之介の声を聴く方が何倍も元気になれるようだ。
「あのね、今日シーンの変更があって、夜の撮影無くなったの!」
『え、そうなの?じゃあ…ちょっとだけドライブでも行く?』
「良いの?!行きたい!」
楽しみ!とにっこり笑顔になった所で楽屋の扉が静かに開く。
が寝ているだろうと気を使って、万理がそっと扉を開いたらしい。
『今日のスタジオって第三だっけ?』
「うん。あ、でも昼から移動があるの。最後のロケが…どこでしたっけ?」
「表参道かな」
「表参道だって」
『じゃあ…駅の方に迎えに行くね』