第9章 翻弄される宿命
「……ジル様………申し訳ございません」
私は頭を下げた
そのまま言葉を続ける
「私は…この国には……残れません」
振り絞るような声が出た
どうしても……
シュタインへ帰らないと
「…それは…やはりあなたはシュタインの人間だからですか?」
!?
私は咄嗟に顔を上げた
何故……
知っているの……?
ジル様は立ち上がり私に近づいてくる
私は反射的に後ろへ一歩づつ下がる
ジル様は言葉を続けた
「シュタイン国王の命令を受け、ウィスタリアへスパイとして潜入した……間違いありませんね?」
嫌な汗が出る…
トンっ
背中が壁が付きジル様は私を囲うように壁に手をつけた
「それをっ…それを知っているなら…何故私がウィスタリアで政治を行う必要があるのですか…?」
ジル様の顔がグッと近づき動悸が収まらない…
「クロエ…スパイだったとしてもあなたはこの国で何か問題になるような事もせず、其れどころかあなたは傷を負ってまでハワード卿を護った……」
「それはっ…」
言葉が見つからない…
「あなたはシュタインで国王専属の秘書と騎士を務めていたそうですね…どおりで執務も完璧に熟せるわけで……私は賢いあなたに興味があります…」
でも…私は、帰りたい…シュタインへ
「私は、ゼノ様を敬愛しています…シュタインへ…帰らせて頂きます…」
ジル様の言うとおり私は何も問題を起こしていない
其れどころか傷を負ってまでこの国の公爵を護った
誰も私を罰する事など出来ないはず…
可笑しい…
だったら初めから気にする事なんて無いのに
私は笑いがこみ上げてくる
「フフっ…」
ジル様は私を冷めた瞳で見てきた
「もしも断れば…シュタイン国王がスパイを送り無理に婚姻を取り付けたと両国民の前で声明させて頂きます、証人はシドが行うでしょう…」
「!?」
私は顔を上げジル様を睨んだ
シドも……
本当に最低な男…
「もちろん、スパイ活動をしたのはユーリ=ノルベルトだと名指しで……
そうなれば…賢いあなたならその先は話さなくてもお分かり頂けますね?」
握り締めた拳が震える
帰るって……
約束したのに…