第19章 昔の記憶
―――
(……煉獄様…。)
菫は薄っすらと瞼を上げると、杏寿郎の美しい剣筋を思い出す。
そして、妹の事も思い出して胸を痛めた。
菫は家出をしている。
人を雇って情報は手に入れていたが、家を出てからは妹に一目も会っていない。
そして、四つ下の妹は本来なら菫が嫁ぐべきであった家に嫁ぐ事になってしまった。
つまり年齢が不相応な結婚なのだ。
(私の許嫁様は良いお方だったけれど…、)
要を見て以降、妹も『鬼殺隊に入る。』と言うようになった。
しかし普通の暮らしをして貰いたかった菫は強く反対し、杏寿郎から貰った便りを妹に一切見せなかった。
(きっとあの子は刀を振るえないわ。ううん、あの子だけじゃなく…、)
菫には剣の才が無かった。
それでも杏寿郎の役に立ちたくて、師範の目を盗んで最終選別に参加した。
そして幸運にも生き残ったのだ。
後から聞いた話では、特別秀でた才能を持った男の子が参加していたらしい。
その男の子は一人で山の殆どの鬼を斃してしまったとの事だった。
そして、その最終選別の合格者は命を落としたその男の子以外の全員だったのだ。
帰ってきた菫は師範にこっぴどく叱られた。
自殺行為だった、と。
そして、鬼狩りについて強く反対され、隠となる道を選んだのだ。
(姉のくせに全て妹に押し付けて、剣の才もなかったくせにしがみついて…、)
菫は瞼を閉じるとふーっと息を吐く。
(だからこそ、私はもう引き返そうと思わない。許されようと思わない。)
パッと目を開くと起き上がって髪を結う。
そして隊服を身に着けて頬を叩いた。
(私に女としての幸せなんて、必要ない。)