第19章 昔の記憶
「炎柱様。」
菫が声を掛けると杏寿郎は笑顔で振り返った。
そして、口を開けたまま固まった。
「…炎柱様。如何されましたか。」
白地に青い花が咲いた浴衣に身を包む凛とした菫は、大切な記憶の中の人に少し似ていた。
杏「…いや、何でも無い!今日も一日よく働いてくれた!ゆっくり休んでくれ!!」
「ありがとうございます。失礼致します。」
深く礼をして下がる菫を見つめる。
そして、湧いた感情から目を背けるように視線を外した。
―――
その夜、菫は懐かしい夢を見た。
まだ菫が家出をする前の夢だ。
その夜の月はとても大きく綺麗で、握り飯だけ拵えてこっそりと家を抜け出した菫は妹と星を見ていた。
そして、その夜の月よりも綺麗な少年と出会った。
菫はその少年に声を掛けようとした。
しかし、声を掛けようとしたところで異形の化物が現れる。
妹は泣いたが菫は不思議と怖く感じなかった。
そして、予感通り、その少年はあっと言う間に化物を退治してくれたのだ。