第19章 昔の記憶
夢の中の菫が煉獄杏寿郎だと名乗った少年に駆け寄る。
「ありがとうございました…!」
杏「当然の事をしたまでだ!」
「…煉獄様は化け物退治に慣れていらっしゃるのですか?」
杏「そんな事はない!まだまだ未熟だ!」
「怖くはないのですか?」
杏「俺の気持ちは関係ない!」
目の前の男の子は何を質問しても同じ調子で明るく返した。
しかし、菫は彼の明るさがその場凌ぎの物のように感じた。
一人になった時、暗い瞳をしているのではと思ってしまったのだ。
その時、杏寿郎の腹の虫が大きな声で鳴いた。
「……。」
杏「む、聞かれてしまったな!腹が限界らしい!」
菫があまりの音に目を丸くしていると、杏寿郎はそうさっぱりとした声を出してから踵を返した。
去ってしまうと悟った菫は急いで持って来ていた風呂敷の結び目を解いた。
「お待ち下さい!こっそり拵えてきたおにぎりがあります。宜しければお召し上がり下さい!」
振り返った杏寿郎の顔にパッと明るい笑顔が浮かぶ。
その笑顔を見た菫はやっと笑ってもらえた気がしてほっとした。
杏「ありがたい!本当に貰って良いのだろうか!」
「はい。貰って頂けると嬉しいです。」
杏寿郎が歩み寄ってきて握り飯を掴む。
その時、杏寿郎の髪越しに大きな月が浮かんでいた。
菫はそれを見上げながら目を見開いた。