第19章 昔の記憶
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杏「突然すまなかった。」
しのぶと天元を見送った後、杏寿郎は菫を振り返って真っ先にそう謝った。
頭巾を被り直していた菫はすぐに首を横に振る。
「炎柱様のお食事が減ってしまう事だけが気掛かりでしたが、音柱様が体格から予想したよりも少食でいらして助かりました。」
何故菫が天元の体を見ていたのかを知った杏寿郎は明るい笑顔を浮かべた。
杏「そうか!気に掛けてくれてありがとう!!」
そう礼を言われても菫は頭を下げるだけで微笑まない。
元より頭巾を被っていては表情はろくに確認出来なかったが、それでも目を見れば微笑んではいない事が分かった。
ただ、輝いてはいた。
杏(…これ程慕われるとは光栄だな!!)
感情に蓋をしてそう思うと、杏寿郎は菫の肩をぽんと労うように叩いた。
その後、杏寿郎は風呂へ入り、さっぱりした直後に庭へ降りて素振りを始めた。
(…考えるだけでも烏滸がましいけれど、私も音柱様や蟲柱様の様に強ければ炎柱様をもっと支える事が出来るのに…。)
風呂に入って浴衣に着替えた菫はそんな事を思いながら縁側へ向かった。
(もう一度剣を取ってみようか…。でもそうしたら師範を裏切ることになる…。)
板挟みになると一度その事について悩むのを止めた。
何より、もう杏寿郎が居る庭が見えてくるのだ。