第18章 疎い二人
杏「……。」
天元は杏寿郎が目を見開いて菫を見つめる様を見ていた。
し「清水さんも笑えるんですねえ。びっくりです。」
「藤井の薬屋でも私が笑うと夫妻は驚いて娘さんは喜んで下さいます。」
照子を思い出した菫が浮かべた表情は、いつだかの夜に花を愛でていた時と同じ、柔らかな物だった。
杏寿郎は自身がとても慕われている事はよく分かっていた。
だが、その表情が自身に向く事はないのだろうという事も分かっていた。
そして、静かな杏寿郎の表情を見ていた天元もまた、二人が真に心を通わす事が困難である事を認めたのだった。
天「勝手に取って悪かった。でもたまには取って良いと思うぜ。その方が煉獄も喜ぶ。」
杏「宇髄!」
「……はい。」
(炎柱様が否定なさらない。今まで気を遣わせてしまっていたのなら、とんだ大失態だわ。私に頭巾で過ごされると屋敷内が暗い印象になるのかしら。)
菫はそんな事を考えるとパッと視線を上げて杏寿郎を見る。
「では就寝の挨拶時、それから週に二日、月曜と木曜は頭巾を取るように致します。」
それを聞いた天元は『堅…。』と呟いた。
杏「分かった。だが嫌になれば無理はしないでくれ。許可を取らずに止めて構わない。」
「お心遣い感謝致します。」
その堅いやり取りを見ていた天元としのぶは目を合わせる。
天「進展すると思うか?」
し「んー。」
しのぶは微笑んだままどっちつかずな声を出したのだった。