第64章 世界一大きな幸せ
杏「…幸せだな。」
杏寿郎はそう言いながら、梳かし終わった様子を見ると菫の手から櫛を奪い、今度は菫の髪を梳かし始めた。
「杏寿郎さん…子供が見ています。」
菫がそう戸惑っても杏寿郎は微笑むだけで手を止めない。
杏「君は俺の髪を褒めてくれるが、俺も君の髪が好きだ。」
少し歳を重ね、そして二児の父親となった杏寿郎は柔らかい空気を纏っている時間がぐんと増えた。
その反動なのか、道場で一人竹刀を振るっている時は、鬼殺隊に在籍していた時のようにストイックであった。
「ありがとうございます。」
そう嬉しそうに礼を言う菫も柔らかい空気を纏っている。
だが、杏寿郎と違って菫の場合は常にそうであった。
固かった過去など嘘のようだ。
それ故に杏寿郎は出会った頃の菫を思い出すと可笑しくて、変化が嬉しくて、如何しても笑ってしまいそうになる。