第62章 ※遠い初めての夜
「……そう、でしたか…。」
杏寿郎は心底ほっとしたような声色を聞くと、全てが解決し、上手くいき、身も心も繋がったような気持ちになった。
しかし、自身がそうでも相手が同じ気持ちとは限らない。
杏「……どうだったろうか。」
杏寿郎はそうストレートに訊いてみた。
すると、自信の無さそうな声を聞いた菫は手を顔から離して笑顔を向けた。
「素敵な旦那様に愛して頂けて堪らなく幸せでした。幸せで…それから、」
菫は一度言葉を切ると、再び真っ赤になりながらも杏寿郎を見つめ続けて口を開く。
「……気持ちが良すぎて…、おかしくなりそうなくらいでした…。」
杏寿郎は菫がそこまで恥を捨てて言葉にしてくれた事を嬉しく有難く思い、手を引いて上体を起こさせるとそのまま強く抱き締めた。
杏「俺の方こそ君のような素敵な女性を妻に迎える事が出来て堪らなく幸せだ。そして、同じく頭がおかしくなるかと思った。」
菫は杏寿郎も同じ気持ちでいてくれたのだと知ると強い幸福感を抱きながら抱き締め返し、杏寿郎の胸にすりっと頬擦りをした。
(ああ、私達は本当に夫婦になれたんだ…。)
そうして幸せな空気に包まれた時、小さくコポッという音が響いた。