第62章 ※遠い初めての夜
杏「…ッ、……は、っは、」
杏寿郎は長い間大量に吐き出しながらずっと短い呼吸を繰り返し、出し終えたのを感じると目を閉じてぶるっと身を震わせた。
そして、菫に優しく口付けてからゆっくりとそれを引き抜いた。
するとそれを追うように吐き出し過ぎた子種がとろりと溢れてきてしまう。
杏「!」
杏寿郎は慌ててちり紙で押さえると、息を深く吐いた。
そして菫の様子を見るように顔を覗き込む。
杏「菫、大丈夫か。」
菫は脱力してぽーっとしていた。
しかし、杏寿郎と目が合うと眉尻を下げて真っ赤になっていく。
「………も、申し訳ありません…、端ない声を…厭らしく何度も…、」
その小さな震える声を聞いた杏寿郎は、菫が何故一週間前の晩に怯えた声を出したのかを悟った。
そして、そんな杞憂をしてしまう菫を愛おしく思いながら優しく微笑んだ。
杏「昼は清廉潔白、夜は乱れ妖艶になる妻はとびきり堪らないものだぞ。普段はそんな気配を微塵も感じさせない君が厭らしく乱れると、俺は酷く昂る。」
菫は包み隠さない言葉を聞き、顔を赤らめたまま目を丸くする。
そして、嬉しさと恥ずかしさから両手で顔を覆ってしまった。