第17章 真実
「え、炎柱様、炎柱様…申し訳ございません。」
普段の様子をよく見ていたから分かる。
杏寿郎は菫を思い遣って歩みを緩やかにしていた。
それに気が付くと菫の目に涙が滲んだ。
「…申し訳ございません。」
再び謝ると杏寿郎は歩みを止めて振り返り、眉尻を下げて困った様に微笑んだ。
杏「何故謝る。隠し事をしてはいけないという決まり事など無いぞ。」
優しい笑顔を見た菫は目を見開いてから、自身の感情を堪えるようにぐっと顔を顰めた。
杏寿郎はそんな菫から視線を外して前を向くと、再び歩き出しながら表情を消した。
杏(無理矢理にでも聞き出すべきだったな。菫さんは何度も頬を腫らしていた。一体どのくらい…、)
そう思い、再び振り返る。
すると険しい表情を浮かべる菫と目が合った。
杏「…君はああいった事をよくされていたのだろうか。」
菫は若干緊張した面持ちになったが、すぐに感情を殺して頷いた。
杏「そうか。」
杏寿郎は短く返すと足を止め、しのぶが居る部屋の戸を叩いた。
―――
屋敷に帰ると菫は杏寿郎に改めて手をついて頭を下げた。
そして杏寿郎はやはりすぐに頭を上げさせ、何一つ責めなかったのだった。
それから菫は男装をしなくなった。
最初は自身の代わりに圭太を紹介した後、荷物を纏めてすぐに屋敷を出ようとしたのだが、杏寿郎が『君の作る料理の味を舌が覚えてしまった。』と言って引き留めたのだ。