第60章 初めての宴
杏(理性をしっかりと…、)
そう律している時に菫が至近距離から見上げてくる。
その瞳は酒のせいで熱を孕み、潤んでいた。
「…杏寿郎さん?」
菫がまた甘い声でそう呼ぶ。
杏寿郎は暫く口を結んで菫の顔をじっと見つめた。
そして、菫が眠気から伏目がちになると、その無防備さに煽られ顔を近付けてしまった。
それでも唇が触れる直前でぴたりと止まる。
頬につぅっと冷や汗が流れた。
杏(……今のはとても危なかった!寝込みを襲おうとするなど婚約者として不甲斐ない!!)
杏寿郎はきちんと反省を終えると体を起こし、目をぎゅっと瞑りながら無防備に寄り掛かる菫を再び布団に寝かせようとした。
その時、そのタイミングで菫の瞼が上がる。