第60章 初めての宴
杏「………………。」
杏寿郎は今の菫だと湯呑みを一人で持っていられない気がし、結局そのまま湯呑みを持って飲ませてやった。
杏(幼い子になってしまったようだな。)
杏「気分はどうだ。吐き気はあるか。」
菫は湯呑みから口を離すとその問いに首を振って否定を示し、手の甲を火照る頬に当てた。
「…ご迷惑をお掛けしてごめんなさい…。ただ熱くてぼーっとするだけです。…吐き気はないわ。少し休めば良くなると思うから杏寿郎さんはもう戻って下さい…。」
そうは言われてもこれ程弱々しくなった菫など見た事がない。
流石に放っておけなかった。
杏「…いや、皆とはもう随分と話した。それに祝言の日にも集まれる。それよりもこの状態の君を一人にしたくない。」
その言葉を聞くと、実は少し心細い気持ちになっていた菫は杏寿郎の胸にトンッと寄り掛かった。
「……では、側に居てください。」
心なしか甘くなった声に杏寿郎の心臓が跳ねる。
側に置いた湯呑みが動揺から揺れた体にぶつかって畳に転がる音がした。