第60章 初めての宴
「笑わないで下さいませ…。」
赤い菫が恥からじわりと涙を滲ませると、杏寿郎は申し訳無さそうに眉尻を下げながら微笑んだ。
杏「すまない。馬鹿にした訳ではないんだ、許してくれ。」
そう言いながら滲んだ涙を拭ってやる。
菫は裏表の無い杏寿郎の声を聞くと、その優しい手を素直に受け入れた。
杏(怖がった訳ではなかったのだな。)
それは良い事なのか、悪い事なのか、杏寿郎は悩みどころだと思いつつ、再び抱き寄せると謝るように優しく背を撫でた。
(杏寿郎さんは優しいから、私がどんな醜態を晒しても許してしまう気がする。甘え過ぎないようにしないと…。)
そう思いながら菫は杏寿郎を抱き締め直して目を瞑った。
二人が黙ると広間の賑やかな声が届いてくる。
その声を聞きながら杏寿郎が菫の左腕に触れる。