第60章 初めての宴
菫はその言葉に困惑した。
父親が、職務中に酒を飲むような部下を自身に付ける筈がないと知っていたからだ。
しかし――、
無「本当だよ。自分でぐいぐい飲んでた。」
酒の入っていない無一郎の一言でその話は片が付いてしまった。
杏「…取り敢えず部屋を用意して布団に寝かせよう。菫、布団を用意してくれるか。」
「はい。」
菫は慌てて広間を出ると空き部屋に入って二組の布団を敷いた。
そこへ角田を背負った杏寿郎がやって来る。
(…杏寿郎さん以外誰も来ない。)
菫は実弥や行冥、蜜璃なら手伝ってくれそうなのにと思って首を傾げた。
往復して権田を運んで来た杏寿郎も、二人を寝かせると一息を吐いてその事に気が付く。
そして二人は皆が気を利かせたのだと同時に悟ると、何となく互いから視線を外した。
(あとで…少し手を繋ぐくらいなら許されるかしら…。)
杏(皆の居ない所でなら抱き締めても良いのだろうか。)
そうして似たような事を考えるとそわそわとし始めたのだった。