第59章 それぞれの
――――――
「お父様、少し宜しいでしょうか。」
夕食後、菫はそう言って重國を見つめた。
重「どうした。」
そう問われると菫はスッと姿勢を正す。
「お母様に『もう教える事はない。』と言って頂けました。なので、明日の四ノ宮家へのご報告にご同行して頂けないでしょうか。」
それを聞いた重國は真顔を崩して咳き込んだ。
そして説明を求めるように晴美に視線を遣る。
彼女の旧姓が四ノ宮だったからだ。
視線の先の晴美は困った様に笑っている。
晴「この子、元々二週間で終わらせるつもりでいたんです。それで『親戚への報告は一週間後から始めたい』と言っていて…、まさか本当に終えてから行く事になるとは思っていなかったけれど…。」
それを聞いた重國は溜息を吐き、蓮華は楽しそうに事の成り行きを見守っている。
重「菫。お前がわざわざ出向いて今までの事を報告しに行くのは、お前が "駆け落ちをした挙句図々しく戻って来た娘" だと思われているかも知れないからだ。」
「存じております。ですので杏寿郎さんが入院されている間、時間を掛けて丁重に日時調整を致しました。」
四ノ宮家以外にも手を回していた事を悟ると、今度は晴美も口元に手を遣って目を丸くした。
一方、重國の方はもう一度小さく息を吐くと気持ちを切り替えていつもの表情を取り戻した。