第59章 それぞれの
蓮「お誕生祝いにですか?」
晴「あの日の後そんな事をしていたなんて。」
晴美の言う "あの日" とは、杏寿郎が夢の鬼を討って菫を連れ帰って来てくれた日の事だ。
つまり、『思いが通じ合ったあの事件の後、そんな事があったのね。』と言ったのだ。
「………いえ。お祝いでもないのに『聴きたいから』と…あの時よりも随分前に…、」
そこまで言ってハッとした。
「蓮華…、杏寿郎さんに私がお箏を弾くと教えた?カキツバタの事も…。いきなり簪やお箏を贈って下さったの。」
カキツバタの簪を贈ったのと同じように、まだ片想いの菫に箏まで贈ったのだと悟った蓮華は目を見開いた。
蓮「い、言いました。でも…まさか…、」
蓮華が困惑するのも無理はない。
その時の杏寿郎はまだ十八歳であった。
二人のやり取りを見つめる晴美は一人楽しそうにしている。
晴「我が家の娘は二人とも随分と愛されているわね。母は安心しました。」
その嬉しそうな明るい声に二人は目を丸くした後、視線を合わせて微笑み合った。