第59章 それぞれの
そして、やはり真剣な面持ちで注がれる様子を記憶に刻み込むように見つめた。
槇(言葉を失くして食い入るように見つめる程に欲していたのか。)
槇寿郎はそう思うと毎日でも晩酌に誘いたくなった。
杏「…ありがとうございます。」
杏寿郎は徳利を置く槇寿郎を見ながらそう礼を言い、軽く酒の匂いを嗅いで少し眉を寄せる。
その顔を見て槇寿郎は薄く口を開いた。
槇「…初めてなのか。」
まさかと思ってそう問うと杏寿郎は頷く。
杏「初めてはやはり父上と飲みたくて…二十歳である内は他で飲むまいと決めていました。正解だったようです。」
杏寿郎はそう言うと嬉しそうに笑った。
そんな事を言われれば槇寿郎の涙腺が再び緩みそうになってしまう。
槇「……そうか。」
そう言うとなんとか涙を引っ込めておちょこを軽く上げる。
杏寿郎もそれに合わせた。