第59章 それぞれの
杏寿郎は何度訊かれても嫌な顔一つせずそう断ったが、千寿郎と槇寿郎は杏寿郎がいつか嫌になってしまうのではないかと心配した。
しかし――、
杏「一度菫を連れて街を練り歩く必要がありそうだな!彼女の可憐さを見れば誰も何も言えまい!!」
杏寿郎は千寿郎に、只々楽しそうににこにこと笑ってそう話し掛けた。
千寿郎は杏寿郎が楽しんでくれている事にほっとしながらふわっと微笑み返した。
千「はい!菫さんはどんな女性より素敵な方です!」
二人は周りを意識せずにそう会話をしたが、このやり取りはすぐに街に広まり、買い物を終えて帰る頃になると娘を紹介しようとする者は殆どいなくなったのだった。
槇(あの清水重國さんの娘だと言えば一人も話し掛けて来なかったろうが…。)
槇寿郎はそう思いながら千寿郎と楽しそうに話す杏寿郎を見つめた。
そして、なんとく『杏寿郎はそれを秘密にしたがるのでは』と思ったのだった。