第59章 それぞれの
杏「父上、俺は惨めではありません。恥に思う必要などありません。俺は昔からずっと父上を尊敬しています。父上が誇るべき信念を持って人々を守った事実は消えません。引退するに至った理由も母上を愛していた故の事でしょう。仕方が無かった筈です。」
そう心が綺麗な杏寿郎に本心から認める言葉を掛けられる程、槇寿郎は苦しくなった。
いっその事、責めて欲しいと思った。
そうすれば許された気になるからだ。
槇(それでも杏寿郎はこの姿勢をやめないだろう…。それならば……これが罰なのだと思おう。)
槇寿郎はそう思うとそっと杏寿郎の肩から手を離した。
槇「…分かった。とにかく今夜は飲むぞ。店で一番良い酒を用意しよう。」
そう約束をして貰うと杏寿郎は嬉しそうに笑った。
槇「千寿郎、今日は三人で買い物に行こう。」
話に入らないよう静かにしていた千寿郎はピッと姿勢を正すと『はい!!』と返事をし、嬉しそうに杏寿郎を見る。
千「最近は父上が買い物に付いて来て下さっていたんです。」
杏「それは良かった!!」