第59章 それぞれの
杏「いえ、上弦の壱との戦闘では仲間が四人居てくれましたし、参については運が良かっただけです。」
槇「運が良かっただけでは首を斬れまい。その運に繋がるまで交戦出来る力を付けていたからこその結果だ。胸を張って良い。」
杏寿郎は槇寿郎が昔の様に自身の頑張りを認めて優しく褒めるので、感情が溢れそうになってしまい拳をぎゅっと握った。
杏「…では!褒美を下さい!!」
そう言う杏寿郎は明るい笑顔を浮かべていた。
昔から杏寿郎が言う褒美は『型を見せて下さい!』だとか、『羽織りに触れさせて下さい!』だとか、欲の無い物ばかりであった。
それ故に大人になって広い世界を知った杏寿郎が何を欲するのかに興味を持った。
槇「勿論だ。今までの分、いくつでも言いなさい。」
その言葉に杏寿郎はパッと嬉しそうな顔をして身を乗り出す。
杏「では!父上と酒を飲みたいです!!」
槇「…………………。」
槇寿郎は命を懸けて戦ってきた息子が、何年も罵り遠ざけてきた息子がやっと言った願い事に、ただ目を見開いた。