第58章 休養―其の弐
圭「分かってたし、当たり前の事なんだけど、鬼舞辻を斃したってあいつらが生き返る訳じゃない。でもなあ、分かってたけど分かっていなかったんだろうな…。」
鬼によって大切な人を失った経験を持たない菫は、食事を作りながらただ静かに圭太が吐き出す言葉を聞いていた。
圭「やっと…やっと叶ったと思ってすぐ報告に行った。でも何も変わらない。『ああ、良かった』って笑った顔を見れる訳でもない。墓前で何かを待っていたら動けなくなった。」
圭太の声が小さくなる。
すると菫は手を止めてお茶を手に圭太の元へ寄った。
圭「悲劇の元凶を潰せたのは分かってる。だけど、それは俺に関係があるように見えて繋がっていなかった。これからは悲劇が生まれないけど、今までに起きてしまった悲劇は消える事がない。まだ終わってない。ずっと終わらないんだ。」
圭太は菫から湯呑みを受け取ると、中に視線を落とした。
圭「すごく最低な話をしているのは分かってる。軽蔑したか?」
圭太に答えを求められると菫は漸く口を開いた。
「いえ。もし家族や杏寿郎さん、圭太さん達の命を奪われていたらと考えると気がおかしくなりそうです。想像だけでもそうなのですから圭太さんはもっと苦しいのでしょう。軽蔑は致しません。」
裏表の無い菫がそうきっぱりと言うと圭太は少し救われたようなほっとした笑みを浮かべた。
それから菫が大量の食事を作る間、圭太は気持ちを溢し続け、これからもずっと向き合っていく他ないんだと腹を括ると菫に礼を言って頭を撫でたのだった。