第58章 休養―其の弐
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そうして三人が杏寿郎の見舞いをしている頃、玄弥もまた兄の実弥の元を訪れていた。
玄「………その、兄貴…、」
実「……………。」
玄弥は『弟なんていない』と返されない事に目を見開き、泣きそうな表情を作った。
すると本当は良い兄の実弥は容易くぎょっとしてしまう。
実「男が泣くんじゃねェ!!」
そう言いながらも実弥は玄弥の目に滲んだ涙を拭ってやった。
実「…テメェは本当に…どうしようもねぇ弟だぜ。」
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更に同じ頃――、
行「…沙代?」
行冥は朝からずっと離れずに世話をしてくれていた隠に顔を向けた。
問われた少女は手を体の前でぎゅっと握る。
沙「…はい…私は沙代です。私…ずっと謝りたくて…、私…、取り返しのつかない事を…先生を傷付けてしまった…。ごめんなさい…ごめんなさい……。」
行冥は静かな表情を作ると沙代から顔を背けた。
行冥は昔、寺に身寄りのない子供を集めて世話をしながら生活していた。
そんな慎ましくも穏やかな生活が壊れたのは突然だった。
一人の子供が我が身可愛さに寺の子供らを売って、鬼を招いてしまったのだ。
行冥は必死に子供らを守ろうとした。
しかし沙代以外の皆は目が見えない行冥は頼りにならないと判断したのか外へ出てしまい、皆殺された。
行冥は一晩鬼の頭部を破壊し続け、なんとか沙代だけは守り抜いた。
しかし、そこで話は終わらない。
沙代は駆けつけた人達に『あの人は化け物。みんなあの人が、みんな殺した。』と言ってしまったのだ。
鬼の体は朝日で塵になりもう其処にはない。
当然行冥は殺人者として捕らえられ、耀哉が助けに来てくれたから助かったものの、一時は死刑に処される身となってしまったのだ。