第58章 休養―其の弐
し「姉さんの仇を討ちたくて一年以上も毒を蓄え続けていたのに、そんな捨て身の攻撃しか出来ないと思っていたのに、……それすら出来なかった。憎い鬼に、姉さんの仇に、何も出来なかった。」
菫は無力感については理解があった為、黙って静かに聞いていた。
し「姉はそれを責めるような人ではないと分かってはいるんです。だけど…、どうしても……。」
菫は目の前で俯くしのぶが、 "蟲柱様" ではなく、四つも歳下のただの女の子に見えた。
それと同時に肩の力と目元を緩ませる。
「それなら…戦いについての報告をする必要はないんじゃないかしら…。ただ、お姉さんの為に顔を見せに行ってあげて下さい。」
少し人間らしくなった口調にハッとしてしのぶが視線を上げると、菫は柔らかい笑みを浮かべていた。
しのぶはその笑みを見つめながら、ただ『姉に、両親に会いたい』と思うとゆっくりと頷いたのだった。
その後菫は真っ直ぐに病室へ帰らずに圭太を探した。
が、どこにも見当たらない。
(…許嫁さまと妹さんに会いに行かれたのかしら……。)
菫は墓の前に一人座り込む圭太を思うと口をきゅっと結んだ。