第15章 声
杏寿郎は自身で決めた通り菫が話してくれるのを待った。
一方、菫はそんな優しさに気付いていたが、自身について名前すら語れずにいた。
そして時間が経てば経つほど、菫が自身について有耶無耶にして良いような空気になっていったのだった。
杏(別に困ってはいないのだから良しとしよう!!)
一週間経った時、杏寿郎はそう割り切って待つ事すら止めた。
顔を洗い、清々しい笑顔で居間を覗く。
すると菫が膳を並べているところだった。
菫はいつも丁度並べ終わった状態で待っている。
それ故に、杏寿郎は楽しそうな笑顔を浮かべてその光景を見つめた。
杏「珍しいな!おはよう!!」
そう大きな声で挨拶をされると、菫は一瞬固まってから頭を下げた。
「お早うございます。準備が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。」
杏「…………。」
杏寿郎はそんな菫を口角を上げながら見つめた。
そして膳の前に座ると腕を組む。
杏「責めるつもりは無い!ただ新鮮だと感じただけだ!言い方が悪かったな、すまない!!」
菫はそう言われるとどこか呆気に取られたような空気を纏い、小さく手を挙げた。
それを見た杏寿郎が首を傾げる。