第54章 嫉妬
「心が狭くてごめんなさい。杏寿郎さんが恋柱様の頭を撫でているのを見てどうしようもなく苦しくなって、気持ちに蓋をしようとしても上手くいかなくて、それで気分を変えようと隣街まで来ました。」
杏寿郎は何か言いたそうに口を開いたが、菫の手が頬から口に優しく滑ってそれを止める。
「ですが、街で親子を見ていたらどうでもよくなりました。私は杏寿郎さんと家族になれるのだから、そんな事を気にしなくて良いんだ、と。」
最後まで聞いた杏寿郎は菫の手を退かすと、真剣な面持ちで菫を見つめた。
杏「嫉妬をするのは君だけではない。俺も君を好いていると自覚する前から宇髄に嫉妬していた。俺の心の方がよっぽど狭いぞ。」
「………。」
杏寿郎が嫉妬する筈ないと思っていた菫は、呆気に取られながら『そうでしたか。』と呟いた。
『信じられない』といった表情を見た杏寿郎が眉を寄せて菫の肩を優しく掴む。
杏「君の下の名を呼ぶ佐藤にもした。君が触れれば竈門少年にだってする。」
その言葉に菫は目を丸くした。