第54章 嫉妬
「…言い訳になりますが、その、気が付かなくて…。」
杏「あれ程しっかりと握られても気にならないのならもう街へ出ないでくれ。危なっかしくて気が気でない。」
「……………………………。」
街を抜けて畦道に出ると菫は立ち止まって杏寿郎を振り返らせた。
そしてしっかりと目を合わせる。
「食い下がられた時、尋常ではないご様子の杏寿郎さんが現れたのです。そちらに気がいっていたので握られた事に気が付きませんでした。普段なら勿論すぐに叩き落とします。すぐ触らせる女だなんて思わないで下さいませ。」
それを聞いた杏寿郎はクールダウンして漸く完全に肩の力を抜いた。
杏「……すまない。頭に血が上っていたようだ。そうだな…君はしっかりしている。失礼な事を言った。」
杏寿郎がそう言って少し眉尻を下げると菫は微笑んで杏寿郎の頬に触れた。
「……私、恋柱様に嫉妬していたんです。」
杏寿郎が唐突な話題とその内容に首を傾げる。
それを見た菫は微笑みながら眉尻を下げた。